映画と画家の関係

映画界では、画家のタッチや色合い、構図などを参考にして撮影することがよくあるそうです。
普段8割はぼーっとしながら映画観ているんですが、最近これに気づいてから、残りの2割くらいは引用元ネタ画家探しをしながら観るようにしてます。で、監督のインタビューや記事なんかを参考にしながら、何人か発見できたので、以下にまとめます。町山さんの解説が多い。(たまむすび聴いてるから…)
今回は映画そのものの内容にはあんまり触れません。どれも好きな映画です。参考にした記事や解説にはネタバレ含まれているものもあります。
なお、それぞれの映画のワンシーンをもとに、引用元ネタの画家のタッチを意識してイラストを描いてみよう!と試みたつもりですが、全然できてませんね。。あくまで練習ということで。。。



その1:Caspar Friedrich(カスパー・フリードリヒ)



なんかハリウッドで最近流行ってるらしい。というの聞いて画像検索してみたところ、まんまクリストファーノーラン映画のポスターだった!後ろ姿の人に広大な風景。ダンケルク(2017年/アメリカ)、インセプション(2010年/アメリカ)、ダークナイト(2008年/アメリカ)……って全部なのでは?あとスターウォーズ最新作「最後のジェダイ」(2017年/アメリカ)も構図がそんな感じですね。特にルークが洞窟の入り口にいるシーンなんか。

参考:町山智浩の映画ムダ話69 『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』



その2:Edward Hopper(エドワード・ホッパー)




多分最も映画で引用されてる画家じゃないでしょうか。ホッパー独特の緑と赤の組み合わせ、結構見る気がする。特に「キャロル」(2014年/アメリカ)は見るからにですし、公開当時に合わせて新装した原作小説の表紙がホッパーだったほどです。ホッパーの絵にキャロル(ケイト・ブランシェット)っぽい人よくいるもんね…。時代設定もホッパーが活躍していた頃だし、とにかくこの映画は画面の色が美しくないところが一秒もないので、絵の勉強になると思います。

参考:町山智浩 映画『キャロル』と原作者パトリシア・ハイスミスを語る
『キャロル』映画化に合わせて原作小説発売へ カバーにはエドワード・ホッパーの絵画が



その3:William Turner(ウィリアム・ターナー)



今年のアカデミー撮影賞を獲った撮影監督のロジャー・ディーキンスは、受賞作の「ブレードランナー2049」(2017年/アメリカ)の他にも「007 スカイフォール」(2012年/イギリス)でも、ターナーっぽいタッチで撮影しているそうです。どちらも、たしかにターナーの機関車の煙のようなボワっとしたシーンあるよね(ぼんやりした感想)。
というかスカイフォールでははじめにジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)とQ(ベン・ウィショー)が待ち合わせる場所がナショナル・ギャラリーのターナーの絵の前!わかりやすい!ブレードランナー2049にもターナーの絵が飾られてるシーンがあるようですが見つけられていない…。
当たり前だが、映画の画面は監督ではなくカメラマン(撮影監督)がつくるということを改めて思いました。最も画家に近い仕事なのでは。
全く関係ないですが、母が大昔にロンドンでターナーの絵見たらしく、「山下達郎の曲に出てくるからどんなのかなと思ったけどぼやぼやしてよくわかんなかった。」と言ってました。わかる。ターナー好きですが。

参考:WOWOW映画塾「007 スカイフォール(復習編)」
町山智浩による「ブレードランナー 2049」レビュー



その4:John Singer Sargent(ジョン・シンガー・サージェント)




「ワンダーウーマン」(2017年/アメリカ)の監督はインタビューで画家について触れています。舞台の第一次世界大戦中と、サージェントの活躍時期も重なるとのこと。たしかに影や衣装が限りなく黒に近いものが多い。対して人の肌や装飾(ワンダーウーマンの腕の武器?も)は白く光って見えるようなコントラストが強い。黒いマントに包まれたダイアナなんか特に。暗い色調でもきらびやか。

参考:映画『ワンダーウーマン』― 35mmフィルムがもたらした独特な映像美
DVD収録の監督インタビューより


その5:Vilhelm Hammershøi(ヴィルヘルム・ハンマースホイ)



「リリーのすべて」(2015年/イギリス・アメリカ・ドイツ)は、世界で初めて男性から女性への性転換手術をした画家アイナー・ヴェルナー(エディ・レッドメイン)とその妻ゲルダ(アリシア・ヴィキャンデル)の物語。ハンマースホイがアイナーと同じくデンマーク出身だから?夫婦が暮らす部屋の壁紙色合いや装飾なんかがハンマースホイのタッチそのものですが、ラストのあるシーンは前述したカスパー・フリードリヒのようでもあるそうです。

参考:『リリーのすべて』映像作りで参考にされた画家とは? トム・フーパー監督コメント到着
町山智浩 映画『リリーのすべて』を語る

その6:George Bellows(ジョージ・ベローズ)



「The Drop」(2014年/アメリカ)は、主人公(トム・ハーディ)が働くバーの照明と暗さが印象的。そして引用元の画家の名前が、ロンドンのナショナルギャラリーで名前も知らずに見ていいなーと思った絵の画家だったので驚いた。好きな俳優が出てる映画の画づくりの引用元が好きな画家ってこんな嬉しいことないよ!
ベローズも、ホッパーと同じAshcan schoolという、20世紀初頭ニューヨークの下町を描いた画家のグループの一人らしい。この映画もブルックリンが舞台なので選んだと撮影監督がインタビューで言ってます。
でもあまり日本では有名な画家じゃないと思います。画集欲しくて探しても日本では出版されておらず、塾の先生に訊いて見つけたのを米amazonで買いました。
そしてこの映画自体、日本未公開だし、話も地味。まあトム・ハーディが出てるから観たんですが、私は面白かったです。悲しいんだかよくわかんない暗い話だし、犬が出てきて可愛い…でも怖い…みたいな複雑な感情になるところも、George Bellowsのタッチを思わせるかもしれません。

参考:Blu-ray収録の監督、撮影監督インタビューより



その7:Andrew Wyeth(アンドリュー・ワイエス)




私が一番好きな画家なので、ぜひ見つけたいと思いつつ、なかなか見つからなかった。この前「スリー・ビルボードはワイエスっぽいのでは?」という話題になり、確かにアメリカの田舎(スリー・ビルボードはミズーリ、ワイエスはペンシルベニアだが)だし、なるほど!と思ったけど、もっと近い映画を最近観た。
「mother!」(2017年/アメリカ)という映画です。これ、日本未公開だけど特別上映会のチケットが当たって観ました。もうDVDも出てる。
主人公(ジェニファー・ローレンス)がずーーーーっと家にいるシーンしかない映画なのですが、家の中の、暗いけど、外の日差しは強そうな感じはまさにワイエス。特にワイエスの水彩画が好きなので、もっと影が濃い感じだったらバッチリだったなと…。
これは、誰も気付いてないのでは?と思いましたが、そんなことはなかった。海外の記事で発見。主人公夫婦が住む家と、周りの広大な草原の描写が、ワイエスの「クリスティーナの世界」を思わせるとか書いてあります。(多分)
こちらの記事:Jennifer Lawrence Goes Completely Mad in Darren Aronofsky’s Psychological Mind-Bender ‘Mother!’
ワイエス気持ち悪いっていう人いるけど、そういう人がこの映画観たら完全に印象が一致すると思う!そう、めちゃくちゃ気持ち悪い映画でした。日本で公開されなかったのもわかるわ…面白かったけど二度と観られないかも。




インタビューで監督が堂々と引用元ネタを述べてるのを見て最初はジャンルが違えばまるっとパクってもいいんだ!と衝撃的でしたが、まあイラストレーションでも何かしら影響を受けながらみなさん描いているのでしょう。
私は最近暗い絵が好きですね。映画の影響かもしれません。自分の絵の色合いも若干影響されているような…

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